夜の余韻を抱く花
朝の庭に出ると、昨夜までそこにあった時間が、まだ消えずに残っているように感じることがあります。
ユウガオの青い花は、そんな朝にとてもよく似合う花です。
夜に咲いた青い花は、朝の光を浴びると少しずつその姿を変えていきます。華やかに咲き誇るというより、静かに、そしてどこか儚げにそこにいる。その姿を眺めていると、過ぎてしまう時間の美しさを思い出します。

あの日の朝
以前、ある夏の朝に、僕は彼女とユウガオを見たことがあります。
彼女の家の庭に、一輪の青い花が咲いていました。
「きれいでしょう」
彼女はそう言って、花を見ながら笑いました。
僕は「うん」と答えました。
本当は、花よりも彼女の横顔を見ていました。
その日、彼女は遠くへ引っ越すことになっていました。だから、僕には言わなければならないことがありました。
けれど、朝の静けさの中では、言葉にしてしまうことが惜しいような気がしたのです。

言えなかった言葉
朝の光が少しずつ強くなっていくと、ユウガオの花は静かに閉じていきました。
「来年も咲くかな」
彼女がそう尋ねました。
「きっと咲くよ」
僕は答えました。
けれど、「来年も一緒に見よう」とは言えませんでした。
その言葉を口にすれば、僕たちの間にあるものが変わってしまうような気がしたのです。
彼女は何も言わず、ただ青い花を見ていました。

朝だからこそ美しい
ユウガオは、夜の花という印象が強いかもしれません。
けれど僕は、朝のユウガオが好きです。
夜の余韻を残しながら、朝の光の中で静かに消えていく。その短い時間に、恋に似たものを感じるからです。
いつまでも続くと思っていた時間は、案外短い。
だからこそ、何気ない朝の風景が、何年経っても忘れられない思い出になることがあります。
あの夏の朝、彼女と見たユウガオの青さを、僕はいまでも覚えています。
そして、ときどき思うのです。
あのとき言えなかった「好き」という言葉も、あの花と一緒に、どこかで静かに咲き続けているのかもしれない、と。