
都会の喧騒に少しだけ疲れた夏、私はあの日、彼に出会いました。
青い空に溶けそうなほど、真っ直ぐに咲き誇るひまわり畑。その真ん中で、彼は大きなキャンバスに筆を走らせていました。

眩しすぎる黄色の迷路で
「あ、すみません……邪魔しちゃいました?」
ひまわりの背丈にすっぽりと隠れる小道で、私は思わず声を上げてしまいました。イーゼルを立てて絵を描いていた彼は、驚いたようにこちらを振り向き、それから、くしゃりと少年のように笑いました。
「いえ、全然。むしろ、ちょうどいいモデルが来てくれたなと思って」
彼の名前は蓮(れん)。この町で絵を描きながら暮らしていると言いました。 彼が描くひまわりは、ただ黄色いだけではありませんでした。光の加減で、オレンジにも、少し切ない黄緑色にも見える、まるで生きているかのような温かさを持っていました。
縮まる距離、重なる約束
その日をきっかけに、私たちは何度もそのひまわり畑で会うようになりました。 私は都会での仕事の悩みを打ち明け、彼はキャンバスに込める夢を語りました。
「ひまわりってね、太陽の方向だけを見ているように見えるでしょう? でも、実は曇りの日や夜は、お互いに向き合って支え合っているように見える瞬間があるんだ」
蓮のその言葉が、当時の私の心に深く染み渡りました。誰かに頼ることを忘れていた私に、彼はそっと寄り添う温かさを教えてくれたのです。
「来年の夏も、またここで一緒にひまわりを見よう」
そう言って彼が手渡してくれたのは、小さなひまわりの種が描かれた、手作りの絵はがきでした。

一年後のプロポーズ
そして、約束の一年後。 再び訪れたひまわり畑は、あの時と変わらない鮮やかな黄色で満ちていました。 でも、一つだけ違うことがありました。
待ち合わせ場所に立っていた蓮の隣には、大きなキャンバスではなく、一本の美しいひまわりの花。
「これを、君に」
彼が差し出したひまわりの根元には、小さなシルバーのリングが結び付けられていました。
「ひまわりの花言葉は『あなただけを見つめている』。僕のひまわり(太陽)になってくれませんか?」
照れくさそうに、でも真っ直ぐな目でそう言ってくれた彼に、私は何度も頷きました。周りを取り囲むひまわりたちが、私たちの新しい門出を祝福するように、優しく風に揺れていました。
太陽を追いかける花のように、私たちもまた、お互いという光を見つめながら、一歩ずつ歩んでいきます。

