春の午後、ひとつの約束
春のやわらかな光が差し込む午後、私は小さな花屋の前で足を止めた。店先に並ぶピンクのバラが、まるでこちらを見ているように揺れていた。淡く、でも確かに胸に触れてくるその色は、言葉にならない想いをそっとすくい上げるようだった。
あの人と最後に会った日、私は「大丈夫」と笑ってしまった。本当は、大丈夫なんかじゃなかったのに。

言えなかった本当の気持ち
ピンクのバラには「感謝」や「しとやかな愛情」という意味があると聞いたことがある。けれど私にとってそれは、少しだけ臆病な愛の色だった。強く求めることも、引き止めることもできず、ただ相手の幸せを願うふりをしてしまう、やさしい嘘の色。あの時、ほんの一言「行かないで」と言えたなら、未来は少し違っていたのかもしれない。そんなことを、いまさら思い出しても遅いのに。

それでも花は咲く
私は一輪のピンクのバラを手に取った。柔らかな花びらが指先に触れる。その感触は、過去の痛みさえもやさしく包み込んでくれるようだった。
人は誰でも、不器用なまま誰かを愛してしまう。言えなかった言葉も、伝えきれなかった想いも、すべてが無駄だったわけじゃない。
そう思えた瞬間、胸の奥に小さな光が灯った。

私はその花を家に持ち帰り、窓辺に飾った。風に揺れるピンクのバラは、もう過去ではなく、これからの私をそっと照らしているようだった。
