窓辺に置かれた赤い記憶
午後の光は、いつもより少しだけ柔らかかった。
彼女の部屋の窓辺には、小さな鉢のゼラニウムが置かれている。鮮やかな赤は、まるで過去の一瞬を閉じ込めたように静かに揺れていた。
「この花、覚えてる?」
彼女がそう言ったとき、僕はすぐには答えられなかった。記憶の中に、同じ色の風景がいくつも重なっていたからだ。

遠い海と近すぎた距離
あれは、海の見える街だった。
白い壁のカフェのテラスに、同じゼラニウムが並んでいた。風は少し強くて、彼女の髪が何度も頬に触れてきた。
僕たちは何も決めずに、ただ同じ景色を見ていた。
恋人になるには少しだけ遠くて、他人のままでは近すぎる、そんな距離だった。
彼女はそのとき、小さな声で言った。
「この花、好きなの。強いのに、どこか寂しそうで」
僕はうなずいたけれど、その意味までは理解していなかった。

