潮風とゼラニウムの午後

窓辺に置かれた赤い記憶

午後の光は、いつもより少しだけ柔らかかった。
彼女の部屋の窓辺には、小さな鉢のゼラニウムが置かれている。鮮やかな赤は、まるで過去の一瞬を閉じ込めたように静かに揺れていた。

「この花、覚えてる?」
彼女がそう言ったとき、僕はすぐには答えられなかった。記憶の中に、同じ色の風景がいくつも重なっていたからだ。

遠い海と近すぎた距離

あれは、海の見える街だった。
白い壁のカフェのテラスに、同じゼラニウムが並んでいた。風は少し強くて、彼女の髪が何度も頬に触れてきた。

僕たちは何も決めずに、ただ同じ景色を見ていた。
恋人になるには少しだけ遠くて、他人のままでは近すぎる、そんな距離だった。

彼女はそのとき、小さな声で言った。
「この花、好きなの。強いのに、どこか寂しそうで」

僕はうなずいたけれど、その意味までは理解していなかった。

今、同じ色の中で

窓辺のゼラニウムに、午後の光が差し込む。
彼女は水をやりながら、あの頃と同じ仕草で少しだけ笑った。

「結局、持って帰ったの」
その言葉に、僕は少しだけ驚く。
あの街の記憶を、彼女はずっとここに置いていたのだ。

花は変わらず、同じ赤で咲いている。
だけど僕たちは、あの頃とは少し違う場所に立っている。

「ねえ、今ならわかる?」
彼女が振り返る。

ゼラニウムの花言葉は、偶然の出会いと真実の愛。
そのどちらも、僕たちは遠回りしてやっと手に入れたのかもしれない。

僕は静かにうなずいた。
今度は、ちゃんと理解できた気がした。

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投稿日: カテゴリー ブログ

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